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ガールズ・オン・ザ・ラン

地下に潜り、3000円を支払うと、飲み物と交換できるチケットが渡される。
大きくて、重たい、真っ黒な扉を2枚開くと、ここにだけ流れている特有な空気の振動が、全身に伝わってくる。

サンクチュアリ

暗転をすると、ブルーの世界に4人のシルエットが浮かび上がってくる。

一瞬で惹き込まれる歌声が紡ぐ歌詞に、耳を澄ませる。
友人であるドラムの阿久津が、いつもと変わらず愉快な表情をしていることに、私は微笑む。
そんなことをしていると、すぐに、曲はサビへと盛り上がりを見せる。

骨太のベース、感情を動かすギターのフレーズ、力強いドラム、音の一粒一粒がはっきりとエネルギーを持っている。それらが融合した大きな波の中をスーッと突き抜けるボーカルの声。

今日もどこかで誰かが泣いて
どこかで誰かが泣けなくて
今日もどこかで誰かが死んで
どこかで誰かが死ねなくて


ここは、ライブハウスは、音楽は、あなたのための、私たちのための、聖域、そう、『サンクチュアリ』なんだ、と迎えてくれる。

鳥肌が収まるのを待たずに、彼女/彼らの新曲が始まる。
一定の間隔を保ったお客さんたちが、足の場所は動かさずに、できるだけ身体を揺らす。

勝手に揺れる。

空気が熱を帯びていく。

地上は雨が降り、少し肌寒いのに、この空間では、少し汗が浮かぶ。

疾走感のある楽曲は、絶え間なく続く。

相変わらず、重たく強くグルーヴを生み出す阿部のベースと阿久津のドラムに支えられ、繰り返される『DON’T TRUST TEENAGER』……

ボーカル杉本の暖かく突き抜けた声に、ギター深澤の声が乗る。
魅了されている間に、3曲が一瞬で過ぎ去った。


故郷・高田馬場

次回のライブ予定が簡潔に伝えられ、次の曲へと進む。
前半で作り出された世界観は、壊れない。

溌溂としたリズムで、『BABY FORGIVE YOU』が始まる。

冒頭から、私の心は弾み、「絶対に好きな曲だ」と確信する。

サビに入ると、今すぐにでもステージに足をかけて、客の上へと飛び上がろうと思った。
私が、社会人だったから、現在のご時世や皆様の安全を配慮して踏みとどまったが、3年前だったら確実にしていた。

いや、頭の中では、飛んでいた。
最前列の屈強な男性の肩に手をかけ、眼鏡のオジサンに脚を持ってもらい、拳を突き上げていた。
何人かの上空を渡り、最後にはステージ下で屈んでいるスタッフに受け止められた。

ガールズ・オン・ザ・ラン、最高!
BABY FORGIVE YOUのMVも是非、作ってくれ!


と、心のなかで汗だくになっていると、次の曲が始まる。

『ユニットバス』

高田馬場は今日も人と吐瀉物に塗れ
雪の降らない街はしょうもなくむき出しなのです


高田馬場発フォークパンクロックバンドを謳う彼女ら/彼らの代名詞となる曲。

私も4年間通っていた、高田馬場の風景がフラッシュバックする。
ロータリーは、今でも人と吐瀉物に塗れているのだろうか。
他人様に迷惑を掛けていることではあるため、不謹慎であることは重々承知ながらも、早くそんな日常のロータリーが戻ったら平和なのではないか、と一面的には過ぎってしまう。

2019年11月19日にアップロードされたリリックビデオの光景は、私たちが憎み愛した故郷に違いない。
建物は建てかわり、ルールは厳しくなり、酒は禁止され、集まりが制限されて変わり果てた高田馬場に想いを馳せた。


私たちのような学生が通っていた、しょうもない街には、作詞した杉本の故郷である青森県とは違って、雪が降らない。
甘い考えではあるが、自然と隣り合わせの美しく厳しい故郷を持ってみたかった、とも思う。



サンクチュアリの終わりが近づくことを知らせるMCが挟まれ、最後の曲が始まる。新曲だ。

杉本の歌声、表現力は、圧倒的に誰もが認める魅力を持つ。
それだけでなく、バックの強さを改めて実感させられる。
バチバチな深澤のギター、アグレッシブな阿部のベース、強く深く響く阿久津のドラム、各々がガールズ・オン・ザ・ランの世界を際立たせる。
軽快なパンクロックに落ち着かず、深みと厚みが心地よく襲いかかってくる。

生の良さを教えてくれて、ありがとう。



久しぶりにライブを見に行った。
学生の頃は、週3で下北沢や新宿のライブハウスに通うこともあった。
そんな私が、社会に出てから、めっきりライブに行けなくなってしまった。

関西への赴任、業務による忙殺、……
要因は色々とあるが、数年ぶりの復帰がこのライブで良かった。

やはり、音楽は、私たちにとって必要な栄養素であり、粛々と進む生活を少しだけでも優しく生きるためのスパイスであることを実感した半日だった。



【ガールズ・オン・ザ・ラン】

東京・高田馬場発、4人組フォークパンクロックバンド。
鋭く刺さるような歌と、熱量の高い演奏が持ち味。
現在までに2本の完全自主制作デモとリリックビデオを発表、2020年11月には1st EPが発表された。​

杉本(Vo/Gt、作詞作曲)は前身バンド「ブレインストーミング」で、渋谷O-westにて行われた未確認フェスティバル2018セミファイナルに出場。大学進学を機に地元青森県から上京し、2019年にガールズ・オン・ザ・ランを結成した。デモ音源「ユニットバス」「サンクチュアリ」は、両曲ともBeFM「ゆうらじ!Hachinohe」エンディングテーマとしてオンエアされた。

RO JACK for COUNT DOWN JAPAN 20/21 では7月度入賞アーティストに選出。12月には同オーディションの優勝アーティストに選出され、COUNTDOWN JAPAN 20/21への出場権を獲得した。

公式ホームページ
https://girlsontherunband.wixsite.com/official



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【今回のライブ】
4月29日(木・祝)SHIBUYA LUSH
Beat Happening!未来ROCK MUSIC!

・輪廻
・グデイ
・XOXO EXTREME
・ガールズ・オン・ザ・ラン
・NaNoMoRaL

FOOD:オクムライスカレー

OPEN➡︎15:40/START➡︎16:00
前売➡︎¥2,500+1DRINK



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