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【復職毎日感想文】遠野遥『破局』~陽介に共感することの告白

【最終日】復職トレーニング5日目

復職トレーニングで、自由に本を読める期間はこれにて終了。
復職毎日感想文は、本記事で終える。
感想文自体は、たまには投稿したい。

前日就寝時刻26:00
当日起床時刻9:30

遠野遥『破局』を読んで

主人公・陽介の思考には、同意するばかりだ。
彼の思考プロセスは独特であるように受け取られがちだが、そんなことはない。
どの場面を切り取っても、少なくとも一度は似たような思考をしたことがあると言っても過言では無い。

この告白は、少し恥ずかしく感じている。
やはり、綺麗事を言うときに表明できる思考では無いからだ。
一部の書評や感想では、陽介はサイコパス的思考の持ち主だとも書かれている。
「私は、陽介と同じ考え方をしばしば行います。」と、親しい人に言うのは憚られる。
きっと、両親の目にこの感想文が触れられることはないが、それに準ずる人たちがこの文章を読んでくれるだろう。
それでも、この作品が素晴らしかったから、あえて言った。

私は、疑問に思った。
主人公について、女性はどう思うんだろう。
私と違う人は、この本をどう読むんだろう。

本作品は、男性である陽介の目線で書かれている。
そのため、女性の方が、陽介の思考を気味悪く思う傾向にあるのではないだろうか。

男女で根本的に思考の違いがあるとは思わない。
男女で分けるのでは無く、人それぞれが異なる思考を持っていると考えるべきだ。
そのため、基本的には、「男女での違い」論はナンセンスであるという立場を取っている。
しかしながら、現代社会の構造上、外的要因が異なる故に、男女の思考に違いが生じるのは、残念ながら認めざるを得ない。

だから、女性は、この男の気持ちに共感しづらいのではないか。
(もちろん、男性であっても、共感しない方々はいるだろう。)
逆に言えば、本作品でも描かれている女性が感じる恐怖:権威との引き替えで身体を求められる・性的消費をされること・女性の性欲など、どんなに分かろうとしても、私はほとんど感じられたことが無いので、本質的には分からない。

理解する、構造を変える努力は必要だが、「本質的に分かる」と言ってのけるのは、何も分かっていない証拠である。

私から見れば、本作品に登場する麻衣子や灯の行動の方がよっぽどサイコパスであると多々感じる。

灯が、長谷部という人間を家に上げた話をする。
陽介には、長谷部が何者なのかを伝えずにエピソードを進めていき、最後に少しだけホッとさせる。
悪気があるのか無いのか知らないが、「すぐこういうことをする」、と少し怒りにも似た感情が湧いていた。
これも著者の思うつぼだったのだろう。

そんな順番で話をする必要があったのか。
相手に心配をさせたくなかったら、長谷部とは誰なのかを丁寧に説明した後、この話題をしても良かったのではないだろうか。
相手のことを一番に考えていたら、この行動だって理解できないと言えることもあるだろう。
わざとなのか、天然なのかは知らないが、灯が陽介を支配する側についた印象的な場面だった。

この人には、適わない、と思うことがある。
そのとき、私たちは何を見ているのか。
年齢、性差、学歴、体格……そんなものではないと突きつけられる。

ここまで議論を展開しておいて、元も子もないことを言うようだが、改めて、人は本質的に同じ世界を見ることはできない。
したがって、誰かの思考を、サイコパス、と決めつけるのはあまりにも乱暴な意見だと感じる。
自分と違う思考に出会ったとき、どういう対応ができるか、試されてみてはどうだろうか。

破局とは、恋愛の終わりだけを意味しない。
私も、今、人生に行き詰まりを感じている。
概ね順調に進んできた人生に、一種の「破局」を迎えているのかもしれない。

こっから、どうしたらいいんだよ、遠野先生。
続きを教えておくれよ……。
もちろん、ここで終わっているのがまた良いのだが。

まずは、空を青いと認識するところから始めるべきか。

(ネタバレをできるだけしたくない、という考えのもと本記事を執筆しているので、具体性に欠けているのは申し訳ない。)

***

今回、芥川賞を受賞した作品。
著者は、1991年生まれ。
帯には「新時代の虚無」と書かれている。

惹き込まれて、あっという間に頁が進んでいった。
浮かんでくる言いたいことがたくさんありすぎて、上手く整理できず、すぐにはまとめられなかった。
凄すぎて声も出ない、ということを実感させられた。

インターネットに転がる書評などでは、主人公の陽介の思考が怖すぎるという意見もある。
しかし、先述の通り、私はそうは思わなかった。

心の中、頭の中では、陽介と共通する思考をしている部分が少なからずあるのでは無いか。
その思考に意識的になっているか否かの違いに過ぎないように感じる。

細かい描写などから読み取れることだけでなく、ストーリーとしても、劇的な結末を迎えるので、非常に面白かった。
陽介の思考が気になる方は、是非、読んでみて欲しい。
私は、遠野さんの前作『改良』を購入したところだ。

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